偶然の出会いを大切にできる人
家の近所に僕が頻繁に行く喫茶店があって、同じく常連の中に、話し好きのおじいさんがいます。このおじいさんが喫茶店にいたら、本を読むのは諦めておじさいんの話を聞く事になります。
おじいさんは、10年程前にとある大手商社を定年退職した後、不動産管理をしならが割と悠々自適な生活を楽しんでいます。
おじいさんと僕の出会いは、5年前です。
僕は喫茶店に10年以上通っていて、マスターともいろいろ話をする常連でした。
そんな中、ある日マスターと話をしていたら、突然だけど、とても自然に会話に入って来たのが、このおじいさんでした。
おじいさんの話はとてもおもしろく、僕もマスターもまた他の常連さんもすぐに惹き付けられました。
僕もこのおじいさんのように、話せたらいいのにと何度思ったことか。おじいさんの魅力は、伝える力とかプレゼン力とかのテクニックじゃないんですよね。決して聞き取りやすくもない話し方なのに、妙に惹き付ける。きっと外側ではなく内側から魅力が出ているのでしょう。
喫茶店でいつも話をするのはおじいさんなのですが、たまに僕にも話を振ってきます。その時は僕は僕のことを話します。育った街のこと、これまで訪れた街のこと、趣味のことなどなど。
おじさいんは、聞く力もすごくて、おじいさんと話をしていると知らず知らずにいろいろなことを話し過ぎてしまいます。
僕もこれまでおじいさんに随分、いろいろなことを話してきたように思います。
今日、少し久しぶりにこの喫茶店に行ってきました。
久しぶりになったのは、今の僕は仕事を失ってお金もないので、なかなか喫茶店にも行けないためです。
とは言え、久しぶりといっても2週間ぶりくらいです。
いくらお金がなくても定期的に行かないと落ち着かない喫茶店です。
喫茶店でコーヒーを飲んでいると、おじいさんが店に入ってきました。
僕が「こんにちは」と言うと、おじいさんは「おお!久しぶり!元気かい!?君に渡したいものがあったんだよ。ちょっと家に取りに行ってくる」と言って、店を出ていきました。
それから20分くらいしてまた、店に入ってきました。
おじさいんは、僕に「これ、大阪で見つけたお土産」と言って、「大阪のお土産」をくれました。
僕は「ありがとうございます。しかも、わざわざ自宅に取りに帰ってもらってすみません」と言いながら、受け取りました。
ただ内心は、「地元が神戸の僕に、なんで大阪のお土産をわざわざくれたんだろう」と思いました。
おじいさんは、これまでも大阪に遊びに行ったり、京都や神戸にも遊びに行ったことはありました。その時は、マスターや他の常連さんも含めて「みんなにお土産」を買ってくることはあったけれど、個人的にお土産を買って来てくれたことはなかったので、不思議に思いました。
さっそくいただいたお土産を開けてみると、
惑星の形をしたチョコでした。
太陽系の惑星がチョコになっています。もちろん地球もあります。
おじいさんは、大阪のリーガロイヤルホテルで惑星チョコをたまたま見て、僕が星や宇宙に興味があることを覚えていて、買ってきてくれたのでした。
僕は、おじいさんが、僕が星や宇宙に興味があることを覚えていたことと、そして、惑星チョコを見たときにそのことを思い出し、そして買ってきてくれたことに、とても感動しました。
僕に同じことができたかというと、きっとできなかったでしょう。
もちろん、僕でも、相手のことをよく知っている家族や親友などすごく身近な人にならできたかもしれません。だけど、そうではない偶然同じ喫茶店で出会った常連という関係の間柄ではできなかったと思います。
偶然の人との出会いを大切にできる人、そして、その偶然の人との出会いを発展できる人って、こういうおじいさんのような人なのかな、と思いました。
そして、おじいさんの話が魅力的な理由がここにもあるように感じました。
いただいた惑星チョコは、一つ一つがまるで陶器のようです。もったいなくてしばらくは眺めていたいと思います。
なお、この惑星チョコは、大阪のリーガロイヤルホテル内の「ショコラブティック レクラ」という店に売っているようです。