人生再起の記録

30代後半で仕事・お金・友達・人脈を失ったところからの再起の記録

一つ一つ積み重ねることの大切さ

僕が社会人になってからずっと通っている美容院がある。

当時住んでいた家の近所にあったことから通い始め、引っ越しをした今でも通っていて、かれこれ15年近くになる。

なぜ、引っ越しても通っているかというと、店を変えるのが面倒だったからということ。そして、僕の髪には髪が固いという多少のクセがあって、そのクセを把握してくれているこの美容院だといちいち説明しなくてよくて楽だから。

 

僕の担当は、僕より2歳くらい下の女性で、最初はアシスタントだった。

彼女は地方で育ち、専門学校から東京に出てきていた。素朴な感じで、のんびりした感じだった。何かと厳しい世界と聞く美容業界でこれからやっていけるんだろうかという危うさもあった。

当時の僕の担当は別にいて、アシスタントである彼女はシャンプーをしたり時々ドライヤーを掛けるくらい。

アシスタント時代の彼女は、やはりまだ対応もぎこちなくて、僕との距離感もつかめずだった。

だけど、彼女はシャンプーがうまくて、マッサージもうまかった。美容院なのでマッサージは本業ではないのに、確実にツボを押さえる技術はマッサージ屋より上だった。相当の練習をしたに違いないと思う。

僕と同じように感じていた客は他にもいて、一生懸命で溌剌とした彼女の性格もあってファンは少しずつ増えていった。まだ髪を切れないのに。

 

僕がこの美容院に通い出してから担当は3人ほど変わった。

僕は人とは徐々に仲良くなるタイプなので、せっかく仲良くなっていろいろな話をできるようになったら、担当が変わってしまうという寂しさを何度か味わった。

だけど、美容室は入れ替わりが激しいと聞くから、仕方がないことだと思っていた。

 

今の担当である彼女が僕の担当になったのは、今から10年くらい前だった。

彼女もようやく客の髪を切れるようになって、僕はその最初の客だったと思う。前任の担当者が辞めたことで僕の新たな担当になったのが彼女。

まだ客の髪を切り始めてばかりの彼女には、僕の固くてクセのある髪を切るのはハードルが高かったのだろう、前任者と比べるとお世辞にもうまいとはいえず、正直なところ不満だった。

だけど、毎回髪を切ってもらうたびに、彼女の技術は進歩していった。少しずつうまくなっていったのだ。確実に毎回「あ、前よりもいいかも」と思ったことを今でも覚えている。

そして、いつしか彼女は僕の固くてクセのある髪もうまく切れるようになった。また、僕の他にもお客さんが少しずつ付くようになっていた。

 

僕の担当になってから5年くらいたった頃だろうか、彼女は会社の美容コンテストで優秀賞を取り、その副賞でヨーロッパ研修旅行に出かけた。

そして、その1年後くらいだったと思うが、今度はテレビの企画であった美容選手権に出場した。それも一度ではなく別の同じような企画の番組にも出ていた。

 

気が付けば、彼女はいわゆる「カリスマ美容師」と呼ばれるような派手だタイプではないけれど、実力と人柄で確実に結果を出す美容師となっていた。

そして、気が付けば、彼女にはたくさんの客が付くようになっていた。中には転勤で地方に引っ越した後も、東京へ出張や遊びにきた時に合わせて通う客もいるそうだ。

更には、彼女の人柄にも惹かれる客も多く、彼女にお土産を買ってきたりする人がいたり、彼女を自宅に招待するご婦人がいたり、仕事以外でのファンも多くなった。

 

今の彼女は、アシスタントの頃から確実に一つ一つ積み重ねてきた結果だろう。

一足飛びに美容の技術が進化したり、客が増えたわけではない。

だけど、彼女は厳しい環境の美容業界で決して辞めずに続け、技術を磨いていったのだ。一人一人の客と真摯に向き合いその要望に応えていった。そして、応えられなければ、また技術を磨いていった。

 

彼女を見ていると、一つ一つ積み重ねていくことがいかに大切かを教えられる。

一つ一つ積み重ねることが大切だなんて、当たり前のことだけど、この当たり前のことをやれている人は、なかなかいるようでいない。少なくとも僕はできていない。

僕は、常にどこかで効率的に済ませようとか、短期的に成長させようとか、何かを一足飛びしようとしていたように思う。もちろんこの意識そのものは否定しない。だけど、一つ一つ積み重ねていくことが習慣としてあった上で、効率性や短期的な成長を求めていくものだろう。

今からでも仕事にしろ、プライベートにしろ、一つ一つ積み重ねていくようにしようと思う。