人生再起の記録

30代後半で仕事・お金・友達・人脈を失ったところからの再起の記録

失敗をしてもまた挑戦すればいい、と言った先生

前回のエントリで、連絡の取れなくなった旧友の父親が高校の先生だったことを書いたら、そのあと、自分の高校の先生について思い出した。

 

僕は地元の県立高校に通っていたのだけど、通い始めた高校の先生はどの先生もあまり好きになれなかった。もちろん、どの先生も嫌いというわけではない。ただ余り好きになれなかった。

その理由は、先生の多くが大学受験のことばかり話していから。

僕の通っていた高校が、みんなが難関大学に進学する高校ではなかったけれど、たいていは大学に進学するという、中途半端な進学校で、「大学は選べないけれど頑張って大学に進学する」学生が多かった。

だから一年生から既に大学受験の話をしてくる先生がほとんどで嫌気が差していた。

「今から受験を意識してやらないと落ちる」とか「受験はそんなに甘くない」とか変なプレッシャーを入学当初からかけてきた。

部活の顧問を除く高校の多くの先生とは、大学受験やそれに関わる以外の話をした記憶があまりない。したかもしれないけれど覚えていない。

 

そんな先生ばかりの中、一人だけトーンが違う先生がいた。

その先生は物理の先生で、背が高く足が長くて、何よりも細かった。だから生徒は裏で「ルパン」と呼んでいた。本当にルパン並みの細さだったのだ。

 

ルパンは、教諭ではなく非常勤講師だった。

当時32歳で、大学卒業後は、不動産の営業の仕事を6年間経験した後、高校の先生を目指して退職。しかし、教員試験を3年間落ち続けていた。その間、非常勤講師として、毎年、県立高校を毎年転々としていた。

僕はルパンの授業が好きだった。

決して物理の教え方がうまいとか、わかりやすいわけではない。

毎授業の5分くらいある雑談タイムが魅力的だったからだ。
ルパンは、毎回、5分くらい使って、いろいろな話をした。

例えば、おすすめ映画の話、音楽の話。それからスポーツの話。そして、社会の話。
どれも、部活ばかりの僕にとって、部活以外の世界に引き連れてくれる話だった。

 

ルパンは、高校生のうちに観るべき映画として、「いまを生きる」を薦めてきた。

今思うと、この映画には彼の「教師としての理想像」があったのだと思う。実際に、映画の中のことをそのまま僕らに説いてくることもあった。

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 ルパンは、ビートルズが好きで、ビートルズが音楽界に与えた影響について、熱く語った。僕らはルパンによって、テレビやラジオで流される有名な曲以外の曲にもやたらと詳しくなった。

ザ・ビートルズ・ボックス

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 また、ルパンは、自分が好きなアメフトの魅力についても語った。

当時はアメフトなんて、遠いアメリカンのスポーツで、全くなじみのないものだった。だけどルパンはアメフトの魅力やそのルールを高校の僕らに、時に物理の授業よりも面白く、そして明らかに物理の授業よりも分かりやすく解説した。

僕は、ルパンの影響で、その後、そして今もアメフトが好きになり、NFLはテレビでいつも観ている。いつかアメリカで見てみたなと今でも思ってる。

www.nfljapan.com

そんな、新しい世界をみせてくれたルパンだけど、僕らの授業を担当していた年度も教員試験に落ちた。

試験が終わった後の授業でルパンは僕らに言った。

「今週、教員試験の合格発表があります。来週の授業で教員試験について触れなかったら、今年も落ちたということです。そっとしておいてください」

そして、次週の授業でルパンから教員試験についての話はなかった。

このことについて、僕はルパンは試験に受かるだろうと思っていたから他人のことだけど、ショックだった。むしろ人生で初めて自分や家族や友人以外のことで「失敗してショック」を受けた出来事だった。

そして、「なんでこんな魅力的な先生が、教員試験に落ちるんだろう。試験している側は」と強く思った。

大人たちから見た時にルパンは、教員の適正はなかったかもしれない。物理の授業も決して分かりやすくなかった。だけど、教師を何十年もやっていてもルパンより授業が下手な先生もたくさんいたから、ルパンはとりわけ適正がないなんて、学生の立場からは思えなかった。むしろ、ルパンの授業は雑談を楽しみに、参加したくなる授業だった。

ルパンが試験に落ちたことは、僕らに初めて「物事はうまくいかない」ことを教えた。

 

ルパンは、僕らが高校2年生になるときに、「また」別の高校へ移った。

そして、僕らはルパンのいない大学受験にフォーカスした面白みのない授業をこなし、そして、いろいろあったけれど、あっという間の高校生活を終えた。

 

卒業式が終わる。

ルパンは、僕らの卒業式に参列していた。

僕らと同じように、ルパンの物理の授業を受けていた他のクラスの生徒たちもルパンの元に駆け寄る。

ルパンは、僕らに卒業の祝いの言葉を掛け、そして教員試験に合格したことを僕らに伝えた。7年間かけての教員試験合格だった。35歳での合格。

ルパンは、そっと言った。

「失敗してもまた挑戦すればいいよ。失敗は終わりじゃないから」

 

僕らは、僕らの卒業式なのにルパンを胴上げした。

まるで、授業の雑談の中で僕らに薦めた映画「いまを生きる」のワンシーンのように。

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 今週のお題「思い出の先生」