人生再起の記録

30代後半で仕事・お金・友達・人脈を失ったところからの再起の記録

桐生祥秀選手が100m9秒台を実現することの意味

東洋大桐生祥秀(きりゅう よしひで)選手が、2015年3月にアメリカのテキサス州で行われた大会「テキサス・リレー」で、追い風3.3メートルの参考記録ながら、9秒87の記録を出し優勝しました。

公認記録での9秒台実現が期待された織田記念大会では、残念ながら10秒台となりましたが、引き続き9秒台への期待が高まっています。

桐生選手は当時高校生だった2年前の2013年4月に、10秒01秒の日本歴代2位(日本記録は10秒00)の記録を出し、「9秒台を出せる選手」として一気にその名が知れ渡りました。

※写真は、2014年のジュニア世界大会
 

日本人が100mで9秒台をついに出せるかもしれない。日本人が100mで9秒台を出すことは、本人はもちろん、陸上関係者、そして僕のように陸上競技をやっていた人にとって、目標であり、憧れであり、夢だと思います。

「100m9秒台はすごい」とは言いますが、100m9秒台は、いったいどれだけすごいのでしょうか?

■ 9秒台は、25年前だと世界大会でメダルが取れる記録です

僕は、選手が100mを9秒台で走る様子をその場で一度だけ見たことがあります。

それは、1991年に東京で行われた世界陸上です。

30代後半以上の人であれば、陸上競技に詳しくなくてもきっと誰もが知っているカール・ルイス(アメリカ)。その人の走りです。

僕は、100mのゴール付近で観覧していたのですが、カール・ルイスの9秒台の走りは、衝撃的で今でも忘れることができません。

陸上競技をしていて、一般の同級生と比べれば足の速い方だった僕でさえ、カール・ルイスの走りは、人間離れしたスピードだと感じました。

「すごい!」というより「なんだ!これは!」という驚きの方が強かったです。そして、モンゴロイドである日本人が持ち合わせいないカモシカのように無駄のない筋肉と長い足で、走る抜けるカール・ルイスを見て、「ああ、陸上競技は、黒人に有利な世界なんだな」と陸上競技を始めたばかりの僕でしたが、半ば諦めの感想を持ちました。

優勝したカール・ルイスの記録は、当時の世界新記録です。その記録は、9秒86です。また、2位のリロイ・バレル(アメリカ)の記録が9秒88、3位のデニス・ミッチェル(アメリカ)が9秒91です。

そして、2015年4月に桐生選手が追い風参考ながら出した記録が、9秒87です。

25年前に僕が、「黒人に有利な世界なんだな」と思っていた世界に、桐生選手は近づこうとしています。そして、1991年の世界陸上東京大会で、度肝を抜かれたあのカール・ルイスと同じ速さで走る桐生選手の凄さを感じています。正直なところ、あまりイメージが持てないくらいです。

■ できるだけ早いタイミングで9秒台を実現して欲しい

もちろん、今は25年前とは違います。今のオリンピックや世界陸上では、100mでメダルを取るには、9秒70くらいを出す必要があります。25年のカール・ルイスの頃と比べれば、陸上競技場のトラックやスパイクは技術が進歩して、高速化していますし、トレーニング方法も進化しています。

だから、桐生選手が9秒台を出してもメダルを取るのは難しかもしれません。しかし、9秒台を一度出せば、更に9秒台の中で記録を伸ばせると思いますし、そうすれば決勝への進出だけでなくメダルの可能性だって見えてくるかもしれません。9秒台を出すことで「次はメダルを」と次のステージが見えてきます。

そして、これは陸上競技に限らず、どのスポーツでも言えることですが、ある1人が「壁」だと思っていたところをクリアすると、他の選手(特にその競技をやり始めた子供たち)の基準が高くなり、彼らが更に上のレベルに到達してくれることを期待できます。

桐生選手が9秒台を実現してくれると、陸上競技界にとって、とても大きな意味を持つことになります。

まずは9秒台を今シーズンの早い時期に到達して欲しいなと思います。9秒99でもよいです。そうすると、来年2016年のリオオリンピックや、2020年の東京オリンピックでの決勝進出の可能性も出てくると思います。

暖かく見守りつつ期待したいです。