人生再起の記録

30代後半で仕事・お金・友達・人脈を失ったところからの再起の記録

どんな仕事も必ず誰かがきっと見てくれている

「なんでこんな仕事を僕がしないといけないのだろう?」

 

銀座の小さな雑居ビルの一室の深夜2時。

もうすぐ社会人2年目になろうとしている僕は、翌朝にある会議の資料をコピーしていた。みんなが作る会議の資料がいつも深夜0時くらいになり、新人の僕は日付が変わってから、資料のコピーを始めていた。大量の資料を人数分コピーして閉じる作業は、いつも深夜2時を過ぎても終わらなかった。

 

新人の僕には雑用が多かった。

会社にはある程度の新人が入社して、たいていは同じ事業部に何人かの同期が配属になったのだけど、僕が配属になった事業部には新人が僕だけ。

必然的に雑用的なことは僕に集中していた。

 

資料のコピーの他にも、先輩や上司の資料の作成ヘルプ、会議の準備、備品の購入、郵送物の発送などなど、とても細々した仕事だ。

僕は、これらの仕事にかなりストレスを感じていた。

なぜなら、これらの仕事は僕の仕事の評価とは全く関係のない仕事だったから。

 

僕が会社から評価される仕事は、営業としての結果だった。

新人の僕は全く売れない営業で、社会人2年目になろうとしている今、営業としての結果を出さなければならなかった。

だけど、営業の仕事以外の雑用が多く、多くの時間を取られていた。

雑用で遅くまで残って仕事をしたり、雑用の影響で営業の仕事を土日に出社して対応しないといけなかった。

 

なんでこんな雑用を僕がしないといけないのだろう?と疑問に思ったし、上司に何度かこの疑問をぶつけたけれど、「新人なんだからやれ」と言われるばかり。もう少しマシなマネジメントして欲しいと、別なストレスも出てくる始末。

 

3月も終わりの誰もいない日曜日のオフィス。

例によって雑用のため平日にできなかった仕事を土日に出てやっている。

僕の社会人1年目の営業職としての実績は、達成月ゼロで終わろうとしていた。

僕は、「やれ」と言われた雑用をバカ正直にやる自分に腹が立っていたし、営業の仕事は結果を出せない自分にも腹が立っていた。

「いったい自分は何をしてるんだ?」

 

僕がそんな気持ちでいたオフィスに、隣の営業部の部長が入ってきた。

その営業部長はまだ仕事は一緒にしたことがない。

もちろん同じ営業なので、何度か相談もしたことあるしアドバイスももらったことはある。

 

僕は今月中に受注できる可能性のある営業先への提案資料を作成していた。これからを全て受注できたとしても、まだ目標は未達だった。

 

そこへ、営業部長が僕のデスクにやってきて、机にそっとファイルを置いた。

それは、大量の名刺が入ったファイルだった。

そして、営業部長は僕にこう言った。

 

「この名刺使っていいぞ。この中からすぐに受注できる会社もあるから」

「お前、いつも会議の資料の準備とか会議の準備とか備品の手配とか、いろいろやってるけど、どの仕事もきっちりやってるからさ。俺からのお礼。達成できるように頑張れよ」

 

営業部長が、僕が雑用をしていることを知っているとは思わなかった。むしろ、隣の営業部長が知っているわけがないと思っていた。

そして、実績を作るために営業部長が集めた名刺を僕に渡してくれるとは思いもしない出来事だった。

 

僕はこの営業部長のおかげで、3月の営業目標を達成することができた。

初めての目標達成は、自分の力ではなく営業部長の力を借りての達成だった。

だけど、この出来事は一つのことを教えてくれた。

 

どんな仕事も必ず誰かが見てくれている。

 

僕が雑用をしてるなんて知らないし、会議の資料を誰が準備しているかなんて知ろうとしない人がほとんどだ。

 

だけど、どんな仕事でも見てくれている人が必ずいる。

そして、見てくれている人は、自分を応援してくれる。

 

僕は、この出来事かあってから、他の人の仕事にもっと関心を持つように心がけるようになった。特に、会社で一見すると埋もれて見えない地味な仕事をやっているのは誰か把握するようにしている。そして、その仕事をしている人に感謝の気持ち伝えたり、その人が仕事で困ったことがあって自分ができることがあれば手伝うようにしている。

あの時、隣の営業部長が僕にしてくれたように。